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EP24「想いの力」

 -8/11 AM09:50 旧ARS本部 新防衛政府本部基地-

 再び戻ってきたARS本部の広いフィールド、俺たちの士気は最高潮に上り詰めていた。
ARSを取り戻すチャンスが目の前にある。エイオスの中に鏡があったとするなら、まさにそれには希望に微笑んだ俺の顔が
映っているだろう。
 両腕のレバーを握りなおし、視界にある赤い機神を、その目でロックオンする。

暁「さぁ、返してもらうぜ!俺たちのARSを!!」


 EP24「想いの力」


焔「返せるもんなら、取り返して見やがれ!!」

 ボロボロのヴォルケーノがエイオスに向ってくる。それが暗黙の合図となり、地上でも交戦が始まった。

暁「遅いっ!!」

 久しぶりに乗ったエイオス、その反応の速さに多少驚きつつも、突っ込んでくるヴォルケーノに拳を叩き付けた。頭部がひしゃげ、いまにもポロリと
落ちてしまいそうなその威力にヴォルケーノは進行方向とは真逆に吹っ飛ばされた。

焔「ぐあぁぁぁっ!!」
暁「まだまだぁっ!!」

 エイオスの羽を広げ、ヴォルケーノとの距離を詰め、さらに追い討ちをかける。両肩の太刀を引き抜き、ヴォルケーノの胸部に斬撃を入れる。
緋色の装甲が十字の深い傷を負う。焔の顔色が打って変わって青ざめる。

焔「負けるのか・・・この俺がぁっ!?」
暁「あぁ、お前には分からねぇだろうな!力や権力に縋るだけのお前に、俺たちの力が!!」

 抵抗できずに落下していくヴォルケーノ。エイオスはゆっくりとその羽を広げ、オレンジ色の光を纏い始めた。

暁「よく覚えておけ、これがARSの・・・俺たちの想いだっ!!
  エイオシオン・ノヴァァッ!!」

 エイオスから放たれる無数の閃光。ヴォルケーノの四肢を跡形も無く消え去り、ついにはコクピットブロックのみまでになった。
ドスン、と重い音を立てて地面に落下しらコクピットの周りには、セイヴァーの残骸が横たわっていた。

暁「なんだよ、皆もう片付けてたのかよ・・・。」

 機神に集中しすぎていた所為か、真下を全然見ていなかったが、そこには無傷の機神、疑似機神が黒こげのセイヴァーを横にこちらを見ていた。

佑作「ま、俺たちの相手じゃなかったね、騎神ってのも。」
かりん「鬱憤晴らしにはちょうどよかったみたいな?」

 4機の中央にエイオスを着地させる。

静流「残るは、貴様だけだな、石田。」
隆昭「所詮お前たちがどう足掻こうと、世の中は防衛政府を支持している・・・!
   自ら非難されに来るとは、なんと滑稽な。」

 両腕の無いセイヴァーから、少し振るえの混じった石田の声が聞こえてきた。

輝咲「残念ですが、防衛政府の悪行は全て全世界に知れ渡っています。
   そちらこそ、もう何をしても無駄です!」

 アルファードから輝咲の通信が入る。

隆昭「何を馬鹿な・・・!!」
暁「何も考えずにここを取り戻しに来るほど、俺たちは馬鹿じゃないぜ!」
真「そうだ!お前が皆を操っていたのもお見通しだ!!」

 アビューズから怒鳴り声が聞こえる。神埼さんはさぞ煩そうだった。

隆昭「ふん、私が薬で操っていたなど、どこに証拠があると?」
真「へぇ~、"薬で"操っていたねぇ~?どうでしょ皆様!」
隆昭「何・・・?」

 戦闘中に間一髪で真に送ったメール。
「皆を操っていたのもお見通しだ、と言え」
切羽詰ったこの状況なら、相手の思考力は衰え、石田は何をといわずともその答えを述べると推測した作戦だった。
もちろん、俺たちはそんなことは前々から知っている。だが、これを知らせるべき人たちがいた。

かりん「はいっ、ばっちし撮れました~っと。」
佐久間「アーフクラルングは電子戦特化の疑似機神だ、ラジオ放送ジャックなんてまだまだ。
    この戦闘をテレビジャックして放映させることすら簡単なんだよね~。」
隆昭「くっ・・・!!」

 石田の顔に大量の汗が吹き出る。

隆昭「だがまだ私には海上基地が残っている!!お前たちなど・・・!!」
レドナ「諦めろ、あそこに居る騎神どもは粉々に潰してやった。」

 叫ぶ石田の声をレドナが遮った。振り向くと、ボロボロのマタドールとセイヴァーを抱えたディスペリオンが目視できた。
俺たちのところまで飛んでくると、両腕に抱えた二機を置き、ドラグーンを構えた。

隆昭「認められるかぁっ!!こんな・・・こんなあぁぁぁっ!!!」

 石田がセイヴァーのコクピットをガンガン叩く。その表情は、もはや人のものとは思えない形相だった。

剛士郎「もう諦めてはいかがです、石田さん。我々は今後も協力する立場でいてくれるのであれば、あなた方を撃つ気など無い。」

 ディスペリオンの中から、司令が言う。

隆昭「・・・・・・。」

 流れる沈黙。数十秒ほど続いたであろう時、俺はふと何かを感じた。

暁「・・・・っ!?」
静流「どうした、鳳覇?」

 聞こえてはいたが、俺は答えることが出来ず、ただ空を見上げていた。晴れている朝の空に、その何かがある気がしたからだ。
そしてそれは、音も無く突然空を捻じ曲げて現れた。

真「な、な、何だ・・・!?」
結衣「空に穴が・・・!?」
輝咲「・・・まさか!!」

 輝咲が思い出したように声を上げた。遠くにいるアルファードからでもはっきりこの様子が見えているようだ。
空の空間から、黄金の光を放ちつつ、それはゆっくりと降りてきた。
 俺もようやく思いだした。あの時、"未来で見たそれ"と同じ威圧感。あの時は姿が見えなかったが、今ではその
神々しい姿がはっきりと目視できた。黄金を身に纏うに恥じぬ王のような姿が。

エルゼ「やぁ、どうやら事は片付いたようだな。」
暁「まさか・・・エデンッ!?」
真「暁、知ってんのか!?」
エルゼ「ふっ、一度このエデンとは未来の世界でゼオンと共に見ただろう?
    私の遠い記憶がそのヴィジョンを映している。」

 遠い記憶、ということは、エルゼからして過去も未来も自身が体験したことは記憶として残っているのだろうか。
だが、目の前にいるエルゼ、そしてエデンという恐怖からそんな疑問は一瞬にして消え去った。

エルゼ「さて、私は生憎多忙でね。石田 隆昭、絶望を味わった感覚はどうだ?」

 黄金に輝くエデンが、石田の乗るセイヴァーを見下ろした。

隆昭「リネクサスごときが、私に何のようだ・・・!!」
エルゼ「おやおや、少々ご立腹のようだな。では、単刀直入に言おう。
    その感情を我々の糧にしないか?」
隆昭「私の感情を・・・だと・・・?」

 エルゼが現れた目的、それがリネクサスへの勧誘であったと誰が想像していただろう。

暁「何をふざけたこと言ってやがる!!」

 とにかく阻止しようと、俺は後先考えずに叫んだ。

エルゼ「エイオスという力を手に入れ、少しは調子付いたようだな鳳覇 暁。
    だが、私の乗るこのエデンも魔神機であり、その中の王に君臨する存在であることを覚えておいたほうがいい。」

 そう言われてもおかしくないエデンの姿に、俺はエイオスの中で威圧からの金縛りにあっていた。

エルゼ「さて、話を戻すとしよう。どうする、石田 隆昭?」
暁「あんたは防衛政府の長官だろ!?リネクサスに手を貸すっていうのかよ!!」
隆昭「っ!!」

 エルゼには何を言っても無駄だろう、俺は石田に向って叫んだ。

隆昭「私は・・・まだこの国を守りたいという心までは腐ってない・・・!!」
エルゼ「・・・そうか、分かった。」

 思ったよりもあっさりとエルゼはその返答を飲み込んだ。しかし、それは余裕からであることが瞬時に判明した。

エルゼ「なら、用は無い・・・消えろ。」

 突如エデンの掌から眩い光線が放たれる。それは石田の乗ったセイヴァーに直撃し、一瞬にしてそれを消し去った。
ノヴァと同じく、セイヴァーがあった場所には何もなくなっていた。

暁「・・・っ!?」
真「ま、まじかよ・・・!」
レドナ「あれが、エデンの力・・・。」

 圧倒的な力の前に、動けないほどの恐怖心が襲った。

エデン「とんだ無駄足だったようだ、それじゃ失礼するよARS諸君。」
暁「ま、待ちやがれぇっ!!」

 やっとの思いで金縛りを破る。レバーをぐいと前に倒し、エデンに接近する。両手の太刀を握り締め、思いっきり振りかざす。

暁「はぁぁっ!!」

 ガツンと鈍い音が響く。しかし太刀の刃はエデンを包み込む光に受け止められていた。

エルゼ「王の前には何人たりとも無力だ。それを証明してやろう。」

 太刀を受け止めた光が大きくなっていく。何が起こるのか、それを使ったことのある俺はすぐに分かった。

エルゼ「エデオニアス・ノヴァァッ!!!」
暁「くっ!!間に合え・・・!エイオシオン・ノヴァッ!!!」

 オレンジ色の光と黄金の光が互いを包み込む。お互いが放つ光がはじけ、その衝撃がエイオスを襲う。

暁「ぐああぁぁっ!!!!」

 地面に叩きつけられるエイオス。その周囲さえも同時に崩壊し、巨大なクレーターを形成した。

真「暁ぁぁっ!!」
エルゼ「さらばだ鳳覇 暁、そしてARS諸君。」

 激痛が体を襲う中、俺は歯を食いしばって空の歪みに消えていくエデンを睨み続けた。


 -8/17 PM07:00 ARS本部 司令室-

 ARSを奪還して数日が過ぎた。ここの本来としての機能もほぼ回復状態にあり、俺たちの生活もだんだん元に戻り始めていた。
 あれから新防衛政府はどうなったかと言うと、彼等の暗躍を世間は非難し、政府は崩壊。本来の政府が持っていた全ての権限を
ARSが所有するという形になった。難しい話しは分からないが、ようするに防衛政府はARSの子分になったらしい。
一先ずはこれで解決していたと思っていたのだが、俺にはどうも気になる点が一つだけあった。それは誰も"石田 隆昭"という存在を
覚えていないことだ。世の中の解釈では「防衛政府の長官権限を何者かが乗っ取り、それによってこの事件を招いた」となっている。
あれからどのニュース番組を見ても、新聞を見ても、石田の存在は誰一人として触れていなかった。
 その事について疑問に思った俺は、司令に話をしてみたところ、メンバー全員を集めて話し合いをしようとすることになった。
そして今に至る。

剛士郎「つまり、旧防衛政府の薬物事件はその石田隆昭という人物が主犯だという話しだが・・・。有坂君?」
雪乃「えぇ、全力で調べてみましたが、彼についての詳細は一切不明です。そもそも戸籍にも登録されていません。」

 各班からの提出情報をぺらぺら捲りながら、有坂が言った。
 付け加えて説明しておくが、現在の防衛政府は"ARS所属防衛部隊"となっており、今までのものを旧防衛政府と呼ばれていたりする。

静流「だが、あのエデンが現れる前に、確かに私たちは何者かを相手に戦っていたはずだ。
   問題は、何故その相手を鳳覇だけが知っているかという事になる。」
佑作「もしかして、夢でも見てたんじゃねぇの?」

 遠藤が俺の脇に横肘をついて言う。

暁「そんなはずはない・・・けど。」

 俺の中では一つだけ答えが見えている気がしていた。

かりん「俺の勘!とか言ったらアタシら帰るわよ?」
暁「そんなんじゃない。もしかしたらの話だけど・・・。
  あの"エデオニアス・ノヴァ"に、"その存在を抹消する力"が備わっているとしたら。」

 俺の発言に、沈黙が流れる。最初にそれを破ったのは、司令だった。

剛士郎「確かに、それであれば辻褄が会う。だが、どうして鳳覇君だけがそれを覚えているのか、という話になるな。」
暁「これは俺の勘ですけど、俺がX-ドライヴァーだからか、エデンに近い魔神機であるエイオスのドライヴァーだからか。」
レドナ「確かに、話しを整理してみるとそう考えるのが妥当だな。」
淳「条件が当てはまるのが鳳覇君だけってのが何ともいえないけどね。」

 やれやれといった感じで佐久間が言う。

結衣「だとしたら・・・、本当に存在を消す力があるなら・・・私怖いよ。」
輝咲「鈴山さん・・・。」

 泣き崩れて座り込む結衣を、そっと輝咲が抱きしめた。

暁「司令・・・、今度アイツが出てきたとき、俺一人で戦わせてください。」

 声を出して泣き始めた結衣の姿を見るのが辛く、俺は身勝手なことを言っていた。結衣の感情が素直なだけで、他の皆も自分という存在が
消されることに恐怖を抱いているはずだ。その恐怖を少しでも拭い去ることができるならば、そういう思いで俺はこの言葉を選んだ。

剛士郎「・・・。」
暁「勝算はあるかどうか分からない、でも・・・皆の存在が消えるなんてことは嫌だ。
  俺だけが消えた奴のことを覚えて入れるのなら、俺が消えても皆は俺の事を忘れられる。」

 なんて馬鹿なことを言っているんだろう、俺は。

暁「最悪でも、相打ちに――」
真「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ暁!!」

 突然、司令室のドアが開き、そこから怒鳴り声を撒き散らしながら真が走ってきた。ぜぇぜぇと息を切らしながら、俺の隣までくると、
大きく深呼吸をして話しを続けた。

真「お前が戦うってんなら、俺も地獄の果てまで付き合せてもらうぜ。」
暁「やめてくれ・・・、お前の存在が消えるかもしれないんだぞ・・・?」

 気付けば、俺の声は震えていた。何故――?

真「簡単じゃねぇか。んなら、消されなけりゃいいだけの話だろ?」
暁「お前だって見ただろ、奴の力を。」

 俺は司令室の窓から見える、エデオニアス・ノヴァの力で叩きつけられたエイオスが作ったクレーターを見て言った。

真「なら、お前一人でアイツに勝てんのか?」
暁「・・・・分からない。でもエイオスなら奴を倒せる可能性は少なくとも1%ぐらいはある。」
真「じゃ、俺がそれに加われば勝率は20%ぐらいアップだな!」

 こんな状況でも、真は笑顔で言った。

静流「面白い、ならば私も加勢してさらに2割り増しさせてもらおう。」

 メガネをカチリと鳴らしながら、静かに神崎が言う。

佑作「んじゃ、俺は10%ってとこかな!」
かりん「あんまし力になんないけど、アタシが入れば5パーぐらい上がるかなぁ~・・・佑作が。」
佑作「ちょ、桜さん!」

 佑作の顔が一気に赤くなる。その姿を見て、桜はクスクス笑った。

結衣「皆が居るなら、戦えるかも。でも私も1%ぐらいかなぁ・・・。」
輝咲「鈴山さんと一緒なら、私は20%ぐらいアップさせますよっ!」

 泣き止み始めた結衣に、輝咲が笑顔で言った。

レドナ「なら、残りの23%は俺の持分だな。計算が間違えてないなら、これで勝利は決定だな。」

 滅多に見せない微笑んだ顔で、レドナが言う。

暁「みんな・・・、ありがとう。」

 いつからだろう、気付けば俺の目からは涙が零れていた。

剛士郎「鳳覇君、君がARSに自分の意思でここまで来た時から、我々は一緒に戦っている。
    残念だが、我々が居る限り、君は一人で大きな物事を背負い込むことはできないのだよ。」

 司令がそっと言った。
 どんなに大事なことでも一人で抱え込むことはできない。これはちょっと恥ずかしい気もするが、それ以上に嬉しいことだった。

剛士郎「さてさて、もうすぐ夕飯の時間だな。今日はこれにて解散としようか!」


 -8/17 PM07:30 ARS本部地下-

 会合が終わった俺たちは、それぞれの家に帰るべくマッハ3の化け物新幹線に乗り込んでいた。扉が閉まる直前まで、俺たちは福岡行き
メンバー以外の皆に手を振っていた。乗ってみていざ気付いたが、俺、真、レドナ、結衣という組み合わせはかなり珍しいかもしれない。

レドナ「そういえば、一つ気になってることがあるんだが、いいか?」
暁「ん?」

 座席に座るなり、レドナが突然尋ねてきた。

レドナ「アルファードのコアは完全に大破したはずなのに、なんで回復しているんだ?」
真「そう!俺もそれ聞きたかったぜ!!」
結衣「佐久間さんの話しだと、すんごい装備をして防衛政府に立ち向かったんだよね?」

 あれからかなり平和な水面下でごたごたと忙しかった俺たちARS一同だったため、その話しを全然していなかった。
確かにアルファードはリデンスキャフトとの戦いで、完全にコアが機能停止状態で、例えるならば自己修復できない植物機神状態だったわけだ。
しかし、それを回復させるすべをARSは持っていた。

暁「あんまり佐久間さんからベラベラしゃべるなって言われてるんだけど・・・。」


 -2019年 1/20 ARS裏本部(第二基地)-

淳「さてさて、ようやくARS奪還の兆しが見えてまいりましたよ~っと!」
暁「こいつは・・・?」

 ARSを占領されて数日、俺と輝咲は佐久間に呼ばれて、裏本部のさらに地下深くに来ていた。

淳「現在の所、もっとも機神に等しい疑似機神"アルヴィスネイト"だ。」

 薄緑色をした人型のそれは、まさしく「未完成です!」と言わんばかりの格好をしていた。例えるならば、スティルネスが装甲をパージしようとしたが、
失敗して3割ぐらい装甲がそのままになったアビューズといった感じだった。

暁「なんでまたこんなの隠してたんですか!?」
淳「いやぁ、隠すってことでもないんだけど、こいつは曲者でね。」
輝咲「ドライヴァーは決まっているんですか?」
淳「そこが問題なんだ。実はこいつは人が乗るところがないんだ。」

 外見からは、機神に必ずある胸の球体レンズのところがスライドして乗れるとばかり思っていたが、そうではないようだ。

淳「吉良司令のお父さんがこの時代に来た時に持ってきてくれたものらしいんだけど、
  なんせ人が乗れないからどう扱っていいものやら悩んでたんだよ。
  そこでだ、コイツのコアをあれに使ってみたらどうかな~っと思ってね。」

 佐久間がアゴで奥にあるひしゃげた鉄の塊を指した。

暁「あれは、アルファードのコクピットブロック!?」
淳「イェス!もうコアの取り付けは終わってるし、状態も良好!ほんの少しずつだけど、アルファードは回復しているよ。」
暁「本当ですか!?」

 アルファードの復帰は、成す術のない今にとってこの上ない喜びだった。

淳「ただねぇ・・・、完全復帰には半年ぐらいかかるんだ。」
輝咲「そ、そんなに・・・?」
淳「まぁこればかりはどうしようもないけど・・・、それにこの半年を無駄にする気はないよ。」

 ニヤリと佐久間が笑うと、どこから持ってきたのか分厚いマニュアルを俺にポンと突きつけた。

暁「こ、これ・・・突撃装備の時のマニュアルより分厚くないですか?」
淳「ページ数は3倍だね。表紙もちなんで赤くしてみたよ!」

 嬉しそうに話す佐久間を他所に、俺は1ページを捲ってみた。輝咲もページを覗き込む。

暁「なんですかこれ!?」
淳「アルファードが完全復帰して世間に出ても、今のままじゃ悪者扱いされるだけだ。
  だから、このアルヴィスネイトのパーツを使ってアルファードを覆い隠すようなでかい強化装甲を作るわけさ!!」

 マニュアル見開きに堂々と書かれたその強化装甲"リベリオン"英語で習ったが、意味は反逆だとかその辺だったと思う。
リベリオンに覆われたアルファードは、その外見が一切見えなくなっていた。

輝咲「でも、本当にこんなの作れるんですか?」

 疑わしいといわんばかりに、輝咲が言う。

淳「あぁ、つくり方はコイツが教えてくれたよ。」

 アルヴィスネイトを見て佐久間が答えた。

暁「こいつが・・・?」
淳「アルヴィスネイトの意味は"全知"。吉良司令は全てを知ることは必ずしもいいことだけではないと言って、こいつの能力を使うことを
  ためらっていたんだ。だから、こんな第二基地に置かれている。」
暁「まさか佐久間さん、こいつのドライヴァーになったっていうんですか!?」
淳「あぁ、アルファードのコアを一回コイツに取り付けて、僕がドライヴァーになったよ。
  だからこそ、アルヴィスネイトを使って、リベリオンを生み出す術もここにある。」

 手に持つシャーペンで、自分の頭をとんとんと叩いて言った。

-

暁「というわけで、アルファードは無事回復、さらには追加装甲のリベリオンもできたってわけだ。」
結衣「佐久間さんって、意外と凄い人なんだね。」

 あまりハンガーでの佐久間の活躍っぷりを見た事がない結衣が言う。

真「でもよ、エイオスに乗るよりかあのままリベリオンに乗ってたほうがよかったんじゃねぇのか?」
レドナ「話を聞いた限りでは、超高速戦闘を可能にするリベリオンに常人が平気で乗れるとは思えないな。
    暁がX-ドライヴァーで、俺のような普通のドライヴァーとは回復力が桁違いだから乗れたってわけだな。」
暁「さっすがレドナ。実は、あれ動かした後って俺死んでたみたいなんだ。」

 俺にとってはもう死ぬ事=気絶のような感じがしていたが、後々佐久間に聞いてみると、心配停止状態になっていたらしい。

暁「それに、マニュアル読んでただけで危険ってのは十分分かったから、佐久間さんも数回の使用を想定して作ったってさ。」
真「ふ~ん、なんか分からねーけど、すんげーんだなぁ。」

 真が大きく背もたれに倒れた。

結衣「そういえば、高田君はこれからどうするの?」

 会話が無くなったところで、結衣がふと真に尋ねた。

真「まだ詳しくは分かんねーけど、ARSの部隊を援護するセイヴァー部隊ってのが新しくできるってさ。
  やる気があるならやらないか?って司令さんに言われたから、勿論なってやったぜ!」
レドナ「だとすれば、青山の姉妹もその部隊に志願したのか?」
真「それがさ、志願兵が俺一人だから、直接ARS前線部隊に入るかもって話しもあったり。
  あの2人はちょっと滅入ってるらしいから、この話しは持ち込んでないってさ。」

 きっと真が滅入らずにいつもの調子で居られるのは、馬鹿というナノマシンが働いているお陰かもしれない。
俺は真の話しを聞きながらふと思ったが、声には出さなかった。

結衣「えっと騎神だっけ?あのセイヴァーも戦力に加わってくれるのは心強いよね。」
真「おっとお嬢さん、俺のは特別に"疑似機神"に改造してくれるって話もあるんだぜ!!」
暁「ってことはお前、ドライヴァーになる気かよ!?」
真「"なるかも"の段階だけどな。でもいざって時が来てんだ!迷ってなんてらんねぇよ。」

 親指をビシッと立てて力強く言う。その時、陽気な音楽が突然流れ出した。

真「おっと、マナーモードにしてなかったぜ。」
レドナ「乗車マナーぐらい守れよな。」

 笑いながらレドナが突っ込む。

真「わりぃわりぃ!っと恵奈からだ。」

 携帯を取り出し、画面を確認する。

結衣「私は気にしないから、電話でていいよ。」
真「あざーっす!!」

 一礼すると、真は隅っこの方に移り、通話ボタンを押した。

暁「本当に相変わらずだな、アイツは。」
レドナ「ま、あぁいうのも嫌いじゃないがな、俺は。」

 奥の真をアゴで指しながらレドナが言う。

真「オッケーオッケー!今から聞いてみるぜ!」

 突然テンションの高い真の声が響いた。

暁「あんまりうるせーと窓から投げ捨てるぞ~。」

 外の瞬時に移り変わる同じ形の壁の風景を指差して言った。

真「うっは、それは勘弁!ってわけで、皆この後暇?」
結衣「私は平気だよ?」
レドナ「同じく、だが・・・」
暁「勿論、理由にもよる。」

 レドナが言おうとしたことを俺が続けた。

真「ようやく色々と治まったことだし、これから皆で飯でも食わない?
  もちろん暁ん家で。」
暁「ちょっとまて、賛成はするが何で俺の家だよ!」
真「だって、パーッとやるには丁度いいじゃん?」

 これでもかというにこやかな笑顔で真が言った。

結衣「うん!私は賛成!」

 嬉しそうに結衣が手を挙げる。

レドナ「ま、夜遅くなっても俺の家の上だからな。暁の家なら俺も賛成だ。」
暁「お~ま~え~ら~・・・。」
真「うっし、じゃ決定だな!ピザとか寿司とかじゃんじゃん頼もうぜ!」

 真は恵奈に2、3言告げると電話を切り、すぐに宅配の手配をした。

 それから30分後。我が家に着くと、岸田と恵奈が家の前で待っていて、それからすぐにピザやら寿司やらが本当に届いた。
久々に皆と会い、大いにはしゃぎ、楽しい時間を送ることが出来て、俺夕食会はそのままお泊り会と進化して幕を下ろした。



 -同刻 月面-

 長く、一瞬の時の旅を終えて、私達は今この地に降り立った。全ては彼の最終作戦の手助けをするべく。

フィリア「やっとついたネ!・・・って、ここ本当に地球なの?」

 背の低い少女フィリアは、爪先立ちで周りを見回した。

ガルド「俺たちはこんな馬鹿でかいもの運んでわざわざ過去に来たんだぜ?
    普通に地球にタイムスリップしたら、大騒ぎになんだろうが。」

 大柄なガルムが、フィリアを肩に乗せた。

ガルド「ほらよ、あれが地球だ。」
フィリア「う~ん、キレ~だね~!」
レイン「浮かれるのもそこまでにしておけ、もうすぐここにあの方がこられるはずだ。」

 はしゃぐ2人に私は注意した。

エルゼ「生憎、私は遅刻するのは嫌いでね。もう着いているよ、レイン・フルブレイム。」

 私の後で酷く鋭い声が聞こえた。振り向くとそこには我が総帥エルゼ様が見えておられた。
ガルドとフィリアもその姿を確認すると、私と同じく肩膝をつき、忠誠を示した。

レイン「エルゼ様、レイン・フルブレイム、ガルド・フォルトロック、フィリア・リーフィット只今到着いたしました。」
エルゼ「長い時の旅ご苦労だった。我が同志たちよ。私もすぐに自分の世界に帰りたいのだが、どうもこの地球には
    我々の手だけではどうも征服することが困難らしい。」
フィリア「そんなの、フィリア達が来たからもう楽勝だよっ!」
レイン「口を慎めフィリア、総帥の前だぞ。」
エルゼ「レイン・フルブレイム、そんなに気を尖らせなくていいさ。肩の力を抜いて構わんよ。」

 エルゼ様はそう仰られると、後を向いて私達が持ってきた積荷を見た。

エルゼ「言い後れたが、これを持って来てくれたことを感謝するよ。」
ガルド「コイツで何千もの星を支配して来たんだ、こいつさえあればもう俺たちの勝ちは決まったも同然っすよ。」
エルゼ「あぁ、この"グラヴィデジョネイト・プレッシャー"さえあれば、すぐにでも地球をリセットし、我々が掌握することができる。
    しかし・・・。」
レイン「何か、他に問題でも・・・?」

 少し俯いたエルゼ様に、私は問いかけた。

エルゼ「今回は今まで通りに行かぬかもしれん。」
レイン「例のX-ドライヴァーとかいう存在ですか?」

 エルゼ様は無言で頷いた。

エルゼ「あれは我々の中でもかなり優秀な戦力だ。それが相手に回り、さらには魔神機さえも彼が所持している。」
フィリア「そんなの、フィリア達の"超神機(アカシックノイド)"でコテンパンにやっつけちゃうよ!」
ガルド「そうですぜ、エルゼの旦那。ちょいと心配しすぎじゃないんすか?
    それにこっちにゃ、オリジナルのX-ドライヴァーのレインだっているんだ!」

 ガルドが私の肩をポンと叩く。

レイン「しかし、私は・・・。」
エルゼ「謙遜する必要はないさ、期待しているよレイン・フルブレイム。」


 -EP24 END-


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